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札幌高等裁判所 昭和55年(ネ)25号 判決

控訴人

岩崎純久

右訴訟代理人

宇山定男

被訴訟人

第一ガス株式会社

右代表者

上森繁

右訴訟代理人

千葉健夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因一の事実〈編注・本件土地をプロパンガス充填工場の敷地として賃貸したこと等〉は当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すれば、本件賃貸借契約を締結するに際し、岩崎正作と被控訴人とは、その期間を定めないことに合意し、なお、本件土地が当時農地であつたことから、北海道知事に対し共同して農地法五条に基つく転用申請をしたところ、昭和四一年七月八日、右申請が許可されたこと、及び、被控訴人は本件賃貸借契約における本件土地の使用目的に沿つて鉄筋コンクリートブロツク造の工場を主棟とする本件建物を本件土地上に建築して所有するに至つたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。してみれば、本件賃貸借は、本件土地を堅固建物の所有を目的として賃貸したものと認められるから、その期間は、借地法二条により、右転用許可の時から六〇年ということになる。

控訴人は、転用許可期間が昭和五一年五月一日までとされたのであるから本件賃貸借の期間もその限度内で一〇年となる旨主張するが、証拠によつても右のように期間を限つて転用許可がなされたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。もつとも、右転用許可申請書である甲第一号証には、設定しようとする賃貸借の契約内容として契約期間昭和四一年六月一日から昭和五一年五月三一日まで一〇年間との記載があるが、一時転用ではない旨の記載もあり、右契約期間の記載から転用許可が期間を限つてなされたものと認めることはできない。かえつて、〈証拠〉によれば、本件土地の転用申請はプロパンガス充填工場敷地として永久に利用するものとしてなされて、これがなんらの期間についての限定を付することなく許可されたものであることが認められる。したがつて、控訴人の右主張は、前提において失当であつて採用の限りでない。

控訴人は、更に、本件土地東半部については借地法の適用がない旨主張する。しかしながら、〈証拠〉を総合すれば、被控訴人は、昭和四七年一二月ころまで、本件建物をプロパンガス充填工場として使用するのに必要不可欠の貯蔵タンク等の設備を本件土地東半部に設置して、本件土地の全体を本件建物の敷地として利用していたものであり、本件土地のかかる利用形態は本件賃貸借契約の締結に際し契約当事者間で予定されていたところであると認めることができ、右認定に反する証拠はない。してみれば、本件土地の全体が本件建物の所有に必要な敷地として賃貸されたものというべきであるから、本件賃貸借はその契約締結時に本件土地の全体を目的として前示のとおり六〇年の期間のものとして成立したものであり、その後になつて本件建物の使用形態が変更され、これに伴いその敷地とみなし得る部分が減小したからといつて、その敷地外となつた部分につき当初に定まつた法定の期間が変更される理由は見出せない。したがつて、控訴人の右主張も採用の限りでない。

三控訴人が本訴状の送達をもつて被控訴人に対し本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。そこで、解除原因の存否につき判断する。

1 〈証拠〉を総合すれば、被控訴人は、昭和四七年一二月ころ、他に求めた敷地に工場を新設して、本件土地上に設置してあつたプロパンガス充填工場内外の施設を右新設工場に移転し、以後、本件建物を倉庫及び事務所として使用して今日に至つていること、本件土地東半部は、その地上に設置されていた貯蔵タンク等の地上設備が右工場移転に伴い撤去され、以後今日に至るまで空地となつており、被控訴人はここに時折りその取り扱う商品等を野積みし、あるいは自動車を駐車する等して本件土地東半部を使用しているが、その大部分は本件建物の利用に必要な敷地部分としての性状を失つていることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2 本件土地がプロパンガス充填工場の敷地として賃貸されたものであることは、前記のとおり当事者間に争いがないが、このことのみから、本件土地をプロパンガス充填工場の敷地として以外の用には転用しない旨の合意があつたものと推認することはできず、本件全証拠によるも、本件賃貸借契約の締結に当たりかかる合意がなされたものとは認められない。むしろ、右のような工場敷地として賃貸したということは、借地人においてプロパンガス充填工場という危険をはらむ施設を借地上に存置させることを、賃貸人が容認すべきである旨を明らかにすることに主張があるものというべきである。したがつて、右認定のとおり、昭和四七年一二月ころ以降被控訴人において本件土地をプロパンガス充填工場の敷地として使用していないからといつて、未だこれをもつて被控訴人に用法違背の債務不履行があるものと目することはできない。その他、被控訴人になんらかの債務不履行があつたものとする主張及び立証はいつさい存せず、なんらの解除原因も認められない本件にあつて、所有者の土地利用を妨げるとして賃貸借契約の継続的契約性を控訴人が援用するのは、法律的に無意味な主張というほかはない。

3 本件土地東半部の大部分が昭和四七年一二月ころ以降、時折り利用される程度の空地となつていることは前認定のとおりであるけれども、借地人がその借地を有効に利用せず、また、返還を受ければ所有者においてより効率的な土地利用が可能であるからといつて、借地人において賃貸借契約上の債務を履行している以上、借地人がその借地を有効に利用しないことが当該土地の性状に回復し難い損害をもたらす等の特段の事情のない限り(本件においては、かかる特段の事情につきなんらの主張、立証はない。)、これが解除原因となり得るものではない。賃貸借契約が継続的契約であることは、右判示になんらの影響を及ぼすものではない。

なお、本件全証拠によるも、被控訴人において本件土地東半部につき賃貸借を放棄したものと認めることはできない。

4  以上のとおりであるから、本件土地の全体についてはもとより、本件土地東半部に限つても、なんらの解除原因は認められないというべきである。

四よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(輪湖公寛 寺井忠 八田秀夫)

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